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2008.06.15

ゼスト御池店から いま話題の本『蟹工船』

こんにちは。暑い日が続きますね。ごきげんいかがですか。

今日は御池店から全国で話題になっている本をご紹介します。
それはこちら。


小林多喜二『蟹工船』(新潮文庫,420円)
蟹工船

新聞やテレビでニュースを見たことはありませんか? そう,「ワーキングプア」など現代の若者を取り巻く社会状況が『蟹工船』の時代の労働者と似ているとして,全国で一大ブームが巻き起こっているのです。当店でも文庫売上ランキングの上位に入ってきています。

皆さんこの本の名はご存知だと思います。国語や社会科の文学史のところで必ず出てきますよね。

この『蟹工船』が出版されたのは1929(昭和4)年。歴史的には第一次世界大戦と第二次世界大戦のちょうど真ん中。日本でも軍部が台頭し,そのトップが総理大臣になることも多い時代でした。

一方で,天皇機関説・護憲運動などをきっかけとする「大正デモクラシー」の影響で,日本に民主主義の流れが芽生えた時代でもありました。最初の普通選挙法が制定されたのが1925(大正14)年です。覚えてますか?「満25歳以上の成年男子に選挙権」ってやつですね。

その流れと文学の世界で関連していたのが「プロレタリア文学」の流行です。世界では社会主義・共産主義の思想が広まっていた時代で,文学の世界でもそれらの思想を背景にして,労働者を主人公とした資本家との階級闘争的な作品が描かれました。

その「プロレタリア文学」の最高傑作として名高いのがこの『蟹工船』です。

著者の小林多喜二は1903(明治36)年に秋田県で生まれ,北海道で育ちました。銀行で働く傍ら小説を書き,1929(昭和4)年に『蟹工船』を出版しました。その後も彼は治安維持法のもと共産主義思想が弾圧される中で作品を書き続けましたが,1933(昭和8)年に特高に逮捕され,激しい拷問ため29歳の若さで獄死しました。


前置きばかり長くなってしまいましたね。すみません。

この『蟹工船』の舞台は北海道のはるか北,カムチャツカ沖(本文では「カムサツカ」と表記)で漁を行うカニ漁の船です。

ここで働く人は北海道で土木工事や炭鉱の仕事に従事していた労働者や東北の農家の次男・三男など,仕事を求めてやってきた貧しい人たち。それをいいことに,資本家は彼らを劣悪な環境の下で労働を強制します。

彼らが寝泊りするのは船の汚い部屋(「糞壺」と表現されています)。タダで食わせているのではないと仕事は夜遅くにまで及び,食事は粗末なもの。風呂も月たったの2回で服にはシラミがわきます。

日に日に彼らは疲労していき,病気にかかる者も多数(ビタミンが不足しているのでしょうか,脚気(かっけ)の描写が多く見られます)。
逃げ出した者にはきつい拷問が加えられ,最後には命を落としてしまいます。

「大日本帝国のため」と称し,人の命の安全そっちのけで自らの金儲けだけ考えている資本家に対し,労働者の不満は日増しに高まっていきます。

とある船が漂流したロシア(ソ連)で一部の労働者が耳にした共産主義思想や,本州の工場ではこのような労働環境だとストライキが起こっているという漁夫たちの会話で,労働者の中に船のトップである「監督」の打倒の火種がくすぶります。

さて,彼らの運命はどうなるのでしょうか。


この本の構図は「資本家vs労働者」という実に分かりやすいもので,「プロレタリア文学」のお手本のようなものかもしれません。

それよりも私が印象に深かったのは,作中の描写の生々しさです。

明日をも知れぬ荒れるオホーツク海(作中では「オホツック」と表記)。労働者たちが住まわされている汚い部屋,汚い体,過酷な漁の仕事。そして彼ら(労働者も「監督」も船長も含め)が北海道・東北の出身者であることを表す方言(私は北海道の出身なのでとても懐かしく感じました)で書かれた会話の数々。これらの表現が本当に生々しい。

私は漁の経験はありませんが,映像などで知る北洋漁業の情景に彼らの姿が重なって浮かんでくるように感じるんです(作中の労働環境は私の想像以上に過酷であっただろうとは思いますが)。


ニュースで解説されるように,現代の若者たちが作中の労働者たちと似ているかどうか,私には判断できません。でも,この『蟹工船』は,一つの文学として大変素晴らしい作品であることは断言します。

80年も前に書かれた作品がこんなに面白く読めてしまうとは。今まで読まず嫌いだった自分を残念に感じます。いやいや,参りました…。


こんなのもあります。『蟹工船』が漫画で読める本です。
かに(まんが)

(文芸担当)

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